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アジアカップ観戦に燃えたある男の物語

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朝、ピチャンの宿で歯を磨きながらTVを見ていると"今晩18:15からアジアカップ一次リーグ日本-カタール戦を実況中継します"といった文字がとつぜん画面上に映し出された。
CCTV5チャンネル。


あれ?今ってアジアカップやってんの?

ほんまに?

見たいなあ、めっちゃ見たい、それはもう見るしかないわな


と"京都伏見のパブロ・アイマール"と呼ばれるほどの自分、いや呼ばれたいほどのサッカー狂の自分がそれを見て、その晩の目的地である勝金の町の宿でサッカー観戦することを即決したのは至極当然なことだといえる。

ビールを買い込み、ヒマワリの種つまみながら、オシムみたいなおっさん親戚におったらイヤやなとか、高原の禿げかたはおれと一緒やなとか、ほんでカタールっていったいどこやねんとか好き勝手言いながら代表を応援する。ものすっごいだらだらとした感じで。

こんなのどう考えたって愉しいに決まってるじゃあないか。


急いで宿を出発。
一路40km先(地図による)の勝金の町を目指す。キックオフは18:15。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
午前中きっかり20km歩く。予定通り。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


久しぶりの代表の試合観戦を前にして炎天下の歩行もどこか楽しい。
目的地の"勝金"という町のことを思いながら、"勝"って"金"なんてめっちゃ縁起いい名前やん、こんなんまた日本代表優勝するんとちゃうかほんま、と気楽にへらへら灼熱の太陽の下を行く。
不思議なもので気分が良いと暑さもまったく苦にならない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
午後もきっかり20km。予定通り。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして時間は18:12。


やったー!

ぎりぎりキックオフ間に合ったー!

さあて、ビール買いこんで宿に入って見るぞー!サッカー見るぞー!








、、、、って、あれ?


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目の前には宿なんか無い。ビール売ってる商店なんか無い。

あるのは相変わらずのだだっぴろい荒野と、近くに見える火焔山(西遊記、芭蕉扇の話で有名)だけ。
あとはちょっと先に緑があるくらい。

町なんて当然無い。



どおゆうこと?

しっかり地図のいうとおり40km歩いたのに、ほんまはもう勝金の町に着いてるはずやのに、"勝"って"金"取らなあかんのに、もうサッカー始まるゆうのに、日本-カタール戦始まるゆうのに、、、、あああ!くそお!

勝金っていったいどこにあんねん!
ほんでカタールっていったいどっっこにあんねん!



しかし怒っていたって何も変わらない。試合はもうすでに始まってしまっている。とにかく今は歩きつづけるしかない。

じつは迷うはずのない国道を地図通りに歩いたのに目的地に着かないということはたまにあることで、これはたいてい地図の距離表示が間違っていることが原因。
しかし距離表示が間違っているといっても2、3kmくらいの違いなので少し歩けば問題ない程度なのだけれど、この道路の先を見た感じだとまだ勝金の町へは5kmほどかかりそうな感じ。

ここにきて5kmの距離は大きい。


ううう、くそう、早くサッカー見せろ、こんにゃろ


腹ただしさを抑えながら、それでもがむしゃらに国道を歩きつづける。
なんとか後半に間に合うように。急げ急げ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして一時間半後。ピチャンより48kmかかり勝金の町へ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


時間は20:45。
まだ太陽は高い。

結局、地図は8kmも間違っていたことになる。

すでに前半どころか後半も終盤に入ってしまっている時間だけれど、まだ試合が終わったわけじゃない。


もうビールなんて買ってる暇はない。すぐさま宿に飛び込み、ウイグル族のおばちゃんに部屋を案内してもらった。


やったー!

ぎりぎり試合間に合ったー!

ビールもヒマワリの種も無いけど、やっと代表の試合見れるうー!!








、、、、って、あれ?(本日二回目)



案内された部屋にはTVなんて無かった。

あるのは汚いベッドが3つとえらく湿った布団が3つ。
それだけ。


いや、ちょっと待ってえや、おばちゃん

TVは?TVが見たいねんけど、、


おばちゃんにそう詰め寄るも、中国語がほとんど理解できないこのウイグル族のご婦人は困った顔をするばかり。


だからTVやん!テ・レ・ビ!!

こんくらいの四角い形してて、リモコンでこうやってチャンネル変えて、「あれ?このリモコンなんか効き悪いなあ」つって、バンバンってリモコン叩いて、な?

ほら、わかるやんっ!!


必死になってジェスチャーでTVの説明。
するとおばちゃんもすぐにわかってくれたようで「あああ!TVね、TV!あるわよ、もちろんあるわよ!」とそんな感じ。


あああ、良かった

TV無いって言われたらどうしようかと思った

そんなんここまで頑張って歩いてきたのに「はい残念、勝金の宿にはTVありませんでしたー、あっほぷう」なんて言われたっておれは笑い話になんかできひんからな

サッカー見せろい、早よお



言われるがまま、おばちゃんの後ろに付いて階段を降り通された部屋は宿の客室ではなく、おばちゃんたちが普段使っている居間だった。

そしてそこにはTVが一台。
「ほら、これのことでしょ」と言わんばかりにおばちゃんは嬉しそうにTVを指さした。



謝々Thanksありがとう

そうそう、これこれ、これやんか

これを見るために今日は一日歩いててん、おれ

さあて、試合は一体どうなっ てんのっ かなっ ??


すぐさまTVの電源を入れ、チャンネルをCCTV5チャンネルへ合わせにかかる。








、、、、って、あれ?(まさかの本日三回目)



電源を入れるが、しかし画面は真っ暗なまま。
なぜか電源が入らない。

必死になって原因を探る。しかしTVに異常はなさそうだし、コンセントを確認しても異常は見当たらない。

ただただ電源が入らない。


うそやん、なんでや、なんで電源入らへんねん!

なんでTV壊れてんねん!

くっそお、もういい!

あかん、こんなTV用ない!

隣の飯店でTV見よう!もうそれしかないわ!


と瞬時にそう思い、部屋を飛び出し隣の飯店へ向かおうとする自分。
そしてそんな自分の背中越しにおばちゃんは中国語でこう言った。

今までぼくが嫌というほど聞かされたあの中国語で。





「シェンザイ、メイディエン」






・・・・・・あ。はい。



ぼくは何も言うことなくおばちゃんからローソクを一本受け取り、階段をかけ上がった。
明日の歩行に備え、十分な休息をとるために。



おわり






※シェンザイ、メイディエン(現在没電)……今、停電中なんだよ。ばーか。

2007.07.09 (Mon) 23:49
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