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ぼくはハックルベリーフィンではなかった


バキッ!メキメキッ!という音がしてからググーッとイカダが傾く。立木と激突して傾いたイカダの中に大量の水が入ってくる。
浸入してきた水はロウソクの灯りを消し、ランタンの灯りを消す。イカダの中はたちまち暗闇になる。


DSCN0285.jpg


あれはアタラヤを出てから五日目の夕方。
いつものように夜間航行を始めた矢先の出来事でした。

夜になるとイカダを流しっぱなしにしてそのまま寝るようにしていました。操作もままならないイカダでは夕方に岸へ停泊させるような器用な真似はできひんし、自分としても夜間に距離を稼げるのに越したことはないからです。

で、そんな夜間のバキッメキメキッググーッ。

傾いたイカダから飛び起き、枕にしていた救命胴衣を掴んで外を見てみると、立木の太い幹がイカダの屋根に突き刺さっていて、手で外そうにもまったく外れそうにありません。
傾きもおさまらず、イカダの半分くらいは完全に浸水してしまっています。

とりあえず救命胴衣を装着、貴重品の入ったサブザックにさらに必要なものを詰め込みます。
どれが必要なんかよくわからないんでラオスで貰ったスプーンとかロシアで買ったコップとか変な物ばっかり入れてしまいました。

サブザックを担ぎイカダの外に再び出てみます。相変わらずイカダに立木が深く食い込んでいて面倒な状況。

少しばかり考えてノコギリで木の幹を切断してイカダを脱出させることにしました。
幹の直径は30センチくらいあって自分のしょぼいノコギリでいけるか微妙やったけど、ええいままよと歯を入れます。へっこへっことノコギリを往復させ、たまに木の幹を蹴り上げる。五分も続けているとメキッと音がして木の幹を切断できました。

見事にイカダから立木を外すことに成功。

暗闇の奥へと遠くなりゆく大木を眺め、おっしゃやったーと独りごちてノコギリを持ったまま甲板にへたりこみました。おーこわ、疲れた、あーしんど。


バキッメキメキッググーッ!


別の立木によるまさかの二回目。
イカダの後部からの衝突に今度ばかりは完全にやられました。

甲板にへたりこんでいた自分はものの見事に川の中へ。
ジャポーンと。否、ハポーンと。

すぐさま立木を掴んだんで川へもろに落ちることはなかったんですけど、イカダの方はバキッメキッと音を立てながら立木と離れ暗闇の向こうへと消えていきました。

残されたのは、立木と憐れな日本人。


さいわい一度目の衝突の際に救命胴衣を装着しサブザックを担いでいたのはツイていました。時間はまだ18時30分。

夢中で木にしがみつき自分の状況を確認してみます。ライトが無いのでよくわからへんけど、きっといつかテレビで見た海外のレスキュー映像のような感じになってるはず。
洪水時に木の上に取り残された人のように。

とりあえずは木を掴めたことで安心しました。
あとは近くを通る船を見つけて助けを乞うしかありません。

しかし、なかなか船は通りませんでした。

夜のうちに船が近くを通ったのは22時と24時の二回。
救命胴衣に付いていた笛を吹き、デジカメの画面の部分をライトがわりにして必死に相手に向かって振りました。
オラー!アミーゴ!ヘルプミー!言うて。

しかし全く相手が気づく様子はなく二度とも船は通りすぎていきました。
そしてまた、立木と自分だけが暗闇の中に取り残されるのです。

この夜は本当に長かった。あまりにも長い時間でした。
ぼくの今までの32年間全てよりもこの立木にしがみついている時間のほうが感覚的に長かった。真剣にそう思っています。

朝にならなければライトを失った自分は周りに気づいてもらいようがありません。朝まで木にしがみつき続けようとするんですけど、とにかくその朝が来ないのです。
30分くらい経ったやろうと時計を見てもまだ5分も経ってなくって幾度も愕然としました。

しかも木にしがみつき続けるだけでもきついのに蚊が容赦なくぼくの身体を刺しにやってきてかゆくて仕方ありません。一度なんかは鳥が頭にとまりました。

立木に当たる水の流れが轟々と音を立て、周りのジャングルからは様々な動物の鳴き声が聞こえます。そんなたくさんの音の中から船のエンジン音が聞こえやしないかと耳をそばだてます。身体を同じ体勢にしていると辛いので少しずつ姿勢を変えてみます。足元では多くの肉食魚がいるというアマゾン川が不気味に黒く笑っているようでした。

わざわざ日本から危険なことをするために地球の裏側まで出てきて、必死に木にしがみついている今の愚かな自分を思うと情けなくて悲しくて、空を見上げるとアマゾンの夜空が綺麗すぎて素敵すぎて。


長い時間をぼくはいろいろな考え事をして過ごしました。

例えば今年の春に亡くした友人のイクオくんのこと。

山で遭難し冷たい姿で発見された彼も、今ぼくがこうして木にしがみついているように寒い寒い冬山で助けを待ち続けたんやろうなと思います。

救助を待ったまま、結果彼は亡くなりました。
救助を待ったまま、結果自分はどうなるんやろか。

このまま死ぬんかな、生きるんかな。
死体が残らへん死に方は嫌やな、オカンも親父もどこに墓参りしたらいいんかわからへんもんな、家族とか友達に死ぬ前にありがとうて言うときたかったな、帰ったら言おう、うんそうしよう、ほな生きて帰らなあかんな、もうちょい頑張ってしがみつこう、もうそんな力残ってへんけどな、今日風強くてオールを全力で漕ぎまくったからなあ、腕パンパンやねんほんま、あとこのまま死んだらノーパンやしめっちゃかっこ悪いな、今日は乾いたパンツ無かったからノーパンなだけやのに死体がノーパンやと「こいつ年中ノーパンのやつやな、気持ちわる」て思われてまうやんか、そらあかんわ、気持ちわるて思われて死ぬなんてめっちゃ嫌やんか、死ぬ時はパンツだけは綺麗なやつ履いてたいってそういや誰か言うてたなあ。

いろいろと思いを巡らせているとこの危機的状況が自分にとってとても大切な瞬間に思えてきて、その時間をどうしても今後忘れたくなくってデジカメで木にへばりつく自分の写真を撮ったりしました。ナイフを取り出し立木の皮を剥いで食べてみたりしました。

身体ん中にこの木を入れとこうと思ったからです。


DSCN0302.jpg


DSCN0288.jpg


DSCN0303.jpg



朝五時頃になり少しずつ空が白んできました。

明るくなってから三度ほど船に無視されましたけど、朝7時頃に貨物船に助けてもらうことができました。

木にしがみついてから12時間が経過していました。

ぼくを木から抱え上げて助けてくれた船員にグラシアス、ムチャスグラシアス言うて枯らした声でお礼を言いました。

今までぼくが経験してきたどんなゴールもこの時の救出劇の感動に勝るものはありませんでした。それはあんまり知りたくなかった現実なんやけど。

船に乗ると船員が新しい着替えを用意してくれました。新しいパンツを出してくれました。
パンツを握りしめ、これでいつでも死ねるなとぼくが思ったことは言うまでもありません。


DSCN0322.jpg


そしてそこから船で二日かけてプカルパに到着しました。


とても長くなったけどそんなことがあってイカダを失いました。イカダ下りに必要なほとんどの装備も失いました。

けど、また生きてられた。まだ死なへんかった。

またこうしてプカルパでうまい飯を食えてることがめちゃめちゃ嬉しい。
嬉しくてしゃあないです。


2012.11.19 (Mon) 01:25
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